食道
【体験記】食道アカラシアや食道-胃接合部分の不具合にPOEM治療 食事が満足にとれない辛さが解消して感激
23.10.31
逆流性食道炎の術後に調子が悪く精神的にも不安定に
胃と食道の接合部を締める手術を母国で実施
日本に近いアジア圏在住のこの患者さんは、何年も前から食道と胃の接合部が緩んでしまい、食べた物や胃酸が食道へ逆流してしまい、その強い酸のために食道に炎症が起こる、いわゆる逆流性食道炎に悩まれていました。 この治療のため、母国で「Nissen噴門形成術」を受けました。これは腹腔鏡で行う手術で、胃の上部を食道の後ろに巻き付けて、その位置を縫合することで、胃と食道の接合部を締める効果があります。この結果、胃の内容物が食道に逆流するのを防ぐ効果が期待されます。
術前の状態に戻してもらいたいと要望
しかし、術後は以前よりさらに症状が悪化し、食後の胃もたれがひどく胸のあたりまでピリピリと痛んだり吐き気がしたり胃痛が2~3時間ほど続いたりして、その間は通常の日常生活が送れないほどになりました。食事もあまりできず夜も眠れなくなり、精神的にも不安定になってしまったということでした。おかゆやお肉を小さくしたものはどうにか食べられるが野菜などは消化もできない状態との訴えでした。噴門形成術がうまくいかなかったのでは、と考え、日本でこの手術前の状態に戻すための治療をご要望されました。 提供された医療情報は術前の画像でしたが、それを見ながらの消化器専門医の先生がオンライン診察を行い、おそらく逆流性食道炎の手術の際に食道と胃の接合部を締めすぎてしまったのだろうと考え、腹腔鏡により締めすぎた部分を適度に緩める手術を予定しました。
不調は別の原因によるものと判明
ところが、来日後に内視鏡検査を実施すると手術を行った食道と胃の接合部は狭すぎることはなく問題がないことが判明しました。 胃袋の出口には幽門と呼ばれる部分があり、そこには幽門括約筋という特別な筋肉組織があり胃の内容物を小腸へ移動させる機能があります。また、胃には迷走神経があり、枝分かれして幽門部に向かいますが、この迷走神経が消化器の部位に信号を伝えて胃の運動などを機能させる働きがあります。医師の見解では、前回の手術によりこの迷走神経が麻痺してしまい、食べた物が胃から腸に出ていきにくくなってしまっているので、食後にいつまでも気分が悪くなるのだろうということでした。
G-POEM手術で症状がすっかり改善
日本の医師が開発したPOEMを胃の幽門に応用
この状態を改善させるために医師が提案したのがG-POEMという手術です。これは、胃の筋肉層に内視鏡を使用して実施する手術で、特に胃の出口部(幽門部)の筋肉が過度に収縮し、食物の正常な移動を妨げる状態に対して実施されます。POEMというのは、食道と胃の接合部の弛緩がうまくいかずに食べ物が胃に送り込まれず食道にとどまってしまう食道アカラシアに対して行われる手術で、昭和大学豊洲病院消化器センター長の井上晴洋先生が世界に先駆けて開発した術式です。G-POEMはこれを幽門に対して行う手術です。今回EAJが本件についてご相談したのが井上先生でした。
G-POEMの実施
実際の手術はどのように行われたのでしょうか。まず、内視鏡を口から挿入します。幽門の手前部分の粘膜と筋肉層の間に小さな切開を作りそこから粘膜下層に入っていきます。そこで内視鏡の先端に取り付けられた拡張バルーンを用いて、粘膜下の空間を拡張し、作業スペースを確保します。そして幽門括約筋を切断します。正しく切断されると約1cmの輪状の切断面が見えます。切断により筋肉の連続性が断たれることで、筋肉の過度な緊張による収縮能力が減少し、幽門輪が自然と弛緩するようになり、スムーズに食べ物が胃から送り出されるようになります。術後は最初に切開した部分をクリップで止め、バルーンを除去して完了です。
手術が成功して普通に食事できる喜び
手術後、患者さんは食事の後、胃もたれや痛みを感じることなく、おいしく食事ができ、好きな野菜の漬物も食べられるようになったと、大変喜んでおられました。よく眠れるようになり、気持ちもすっかり回復したとのことです。 同じような症状で苦しんでいる人たちと母国での治療中に知り合ったので、ぜひみんなに井上先生を紹介したいとおっしゃっていました。
食道アカラシアでも高い実績
G-POEMはもともとは食道アカラシアに対して食道と胃の接合部を緩めるも目的で開発され確立された術式です。井上先生のもとには米国などからも食道アカラシアの患者さんが訪れ、その患者さんが他の患者さんを紹介するという流れができて、これまでに10名近い患者さんのコーディネートをEAJでは行ってきました。食道アカラシアの患者さんも、ぜひEAJまでお問合せください。