治療法(BNCT)
【体験記】「神経膠芽腫のお子さんへのBNCT治療」7歳の少年とご家族に寄り添って
23.10.17
7歳の少年が日本にBNCTを受けに来るまで
ヨーロッパアジア地域在住のこの患者さんは、ドイツで腫瘍切除の外科手術と化学療法を受けたのですが、治療後1か月に残留腫瘍が活性化していることがわかりました。日本での治療の可能性を探りたいとのことで来日、有名な小児専門病院と脳専門病院を受診、「現在の化学療法が適切な治療である」との見解で帰国しました。しかし、お母様が他に何か治療ができないか懸命に調べ、神経膠芽腫にはBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)が適用になるのではないか、とEAJに相談が来ました。当時は、一般的にBNCTの治療は行われていなかったため、東京大学医科学研究所の教授に相談したところ、大阪医科大学で京都大学の原子炉を使ったBNCTの臨床研究を実施していると教えてくれました。早速連絡をしてみたところ、「治療の可能性があるのでまずは検査に来てご家族とお話をしましょう。来週にでもどうぞ」との回答をいただき、急いで来日の手配を行い、患者さんと大阪へ向かいました。
BNCTとは?
診察中に先生がお母様にされたBNCTについての説明はとてもわかりやすく、同行していた私もスムーズに通訳できた記憶があります。「BNCTの特徴は外科手術や他の放射線治療と違って、正常細胞とがん細胞が入り混じったタイプのがんでも、癌細胞だけやっつけることができます。BNCTの仕組みは、まずがん細胞に集積する特性のあるホウ素薬剤を点滴で体内に入れます。この薬はがん細胞にだけ入り込みます。その後で中性子を患部に照射すると、中性子線と薬剤が反応を起こし、ちょうど細胞のサイズぐらいの距離の放射線が出ます。これががん細胞を破壊しますが、隣の正常細胞までは届かない距離の放射線です」と言って、紙に絵を書いてくれました。その後検査をしましたが、その時点では再発は認められなかったため、いったん帰国することになりました。半年後、化学療法を継続しながら経過を診ていたドイツの病院で再発が認められ、再度BNCTを検討することになりました。しかし、BNCTの適用を最終的に判断するためにはBPA-PETという特殊な検査をする必要があり、それが患者さんのお住まいの地域にはありませんでした。原子炉の定期休業が迫っていたため、またしても急いで来日することになりました。
いよいよ照射当日をむかえ
京都でBPA-PET検査を行ったところ再発が確認され、BNCTの適用が決まりました。当時BNCTには京都大学の原子炉で作り出される中性子線を使っていたため、患者さんは1人で原子炉の中に入って治療用ベッドに横たわり30分間じっと動かないで止まった姿勢を取る必要があります。わずか7歳のこどもが異国の地で巨大な装置に1人で入り、じっとしていることができるのか?と先生も関係者もとても心配しました。私も何度も通訳として「1人で心細いかもしれないけれど、病気の治療のためだから30分間絶対に動いてはだめよ」と説明を繰り返しました。驚くべきことに、この少年は医師や技師の予想をはるかに上回るほどに、30分間全く動かずに治療を終えました。このがんばりのおかげもあって、患者さんはその後の経過もよく学校にも戻ることができたと連絡がありましたが、残念ながら数年後に再度再発して亡くなったとの知らせがありました。
こうした初期の事例を踏まえて、治療効果を高める様々な試みが続けられています。 当時は限られた脳腫瘍しか適用になりませんでしたが、現在は皮膚がんや頭頚部がんなど治療の範囲も広がり、実施している医療機関の数も増えました。この正常な細胞を壊さない低侵襲の治療法で、より多くのがん患者さんが助かることを祈っています。
(2012年のコーディネーター体験記を再編集しています)