脳・脊髄(脊髄腫瘍)
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【体験記】治療が困難な脊索腫を重粒子線治療で 通院での低侵襲の治療なので、家族で観光にも
24.02.05
重粒子線治療を希望されてから来日まで
医師から「EAJに連絡するように」と
オーストラリア在住の患者さんは、現地の主治医のコネクションで放射線医学総合研究所病院(現QST病院)の医師と連絡を取り、重粒子線による仙骨脊索腫の治療ができそうとのことで、QST病院の医師から「窓口としてEAJに連絡するように」と言われ、連絡がきました。治療が可能であればなるべく早く治療を受けたい、とのことでしたが、ちょうど来日を予定していた頃まで設備のメンテナンスがあり、まずは日程調整から始めました。運よくメンテナンス後最速のタイミングで予約を入れることができました。この患者さんは、事前の画像確認により、仙骨裏側の左右にそれぞれの2部位を同時ではなく連続して2度治療する予定だったため、来日から2か月後に帰国便の手配を変更可能なチケットで行いました。
手術や普通の放射線では治療が難しい脊索腫
脊索腫は、多くの神経や血管がこの部分を通って顔や首へと繋がる頭蓋骨の下部や仙骨部にできる腫瘍で、治療が大変困難とされています。手術では、腫瘍が深部に発生するため周辺の正常な神経等を損傷せずに摘出することが極めて困難で、摘出できたとしても腫瘍細胞が骨に浸潤しているため早期に再発するおそれがあります。また、通常の放射線では合併症なく高線量を当てることが難しいです。重粒子線は腫瘍が深い所にあっても特定の深度でエネルギーを最大に放出させることができ、その放射線が腫瘍のDNAに与えるダメージが大きく修復しにくいため再発も比較的低く抑えることができます。このため、脊索腫の治療に重粒子線は大変有効な選択肢となり得ます。
長期滞在のための生活サポート
今回は2か月近く日本に滞在して治療を受けることになるために、医療滞在ビザの他に長期の滞在に備えての様々な手配を行いました。まず住むところは、医療機関の近くにあるマンスリーアパートメントを確保、キッチンもありご家族とともに自炊や洗濯など日常生活が送れるようにしました。荷物も多くなるために空港からアパートメントまでのジャンボハイヤーの予約、いつでもEAJに連絡を取れるようにプリペイドの携帯電話の貸与なども行いました。来日後には、診察の後に通訳が買い物ができるお店や現金を下ろせる場所を案内しました。また、治療の途中にお子さんも来日するとのことで、その際には東京観光や千葉の動物園に行くモノレールなどの情報も伝えました。
来日して治療開始
重粒子線治療の準備
予定通り来日して、初回の診察と検査日を迎えます。まずは検査を行い、最終的に治療ができるかどうかの確認を行います。その後に治療についてのInformed Consentを取ります。紙面での説明もありますが、通訳が細かく説明を行います。次は、照射中に体が動かないように治療台と体を固定する固定具を作るための型を取ります。
固定具や照射計画などの準備ができるのに約1週間かかります。 来日してからおよそ10日後に第1回目の照射が始まりました。
照射開始
今回は通院で週4回の照射を3週間の計12回行い、その後にもう片側の腫瘍の治療方針を決めるということになりました。照射は1回につき1方向の計4方向から行い、照射部位を腫瘍と同じ円形にする、という計画に沿って行われました。照射と週1回の診察の際には通訳が付きます。この患者さんは、10年ほど前に通常の放射線治療を受けたことがあるとのことで、ここではそのような症例がないので正確ではないかもしれませんが、QST病院での仙骨脊索腫のこの時点での5年がん制御率(何年再発せずにいられるか)は89%とのことでした。 治療が順調に進んだのでもう片方の照射も予定通り行うことになりました。Informed Consentや型取りなどをもう一度行います。滞在期間中に歯の調子が悪くなったとの訴えがあり、ちょうど次の週に大学病院から歯科医が来る予定があっため受診をした、ということもありました。治療が通院だったため、照射がない日はご家族で新幹線で出かけるなどリラックスする時間もお持ちいただけたようです。
帰国後の様子
患者さんは帰国後、週に3回職場に復帰したとのことです。最後の照射から1か月後にMRI画像を現地から送り、先生に見ていただくなどフォローアップを行っていました。 この案件の後も、オーストラリアからは重粒子線ご希望の脊索腫の患者さんから続々とご連絡があり、多くの方が治療を受けられました。