治療法(重粒子線治療)

【体験記】脊椎の骨肉腫への術後・化学療法後の重粒子線治療 母国の医師と密に連携して治療を実施

23.10.31

現地では放射線治療は不可能と言われたけれど

日本の親族から陽子線・重粒子線治療について聞いて

まだ若いこの患者さんは、脊椎の骨肉腫と診断され腫瘍切除の手術を受けました。その後化学療法を始めたばかりで、これから4か月間にわたって6サイクルの化学療法を行う予定とのことでした。日本から見て地球の裏側にあたる患者さんが在住しているこの南米の国では、骨肉腫に関する情報が少なく、日本で要職についている親族を頼って日本での治療の可能性を探していました。現地医師からは放射線治療は近くの組織に壊死や麻痺を引き起こすなどのダメージがあるため選択肢として示されなかったけれど、日本にいる親族からの情報で陽子線や重粒子線であれば治療が可能かもしれないということを知った、とのことでした。早速当社から陽子線施設と地方にある国立大学付属病院の重粒子線治療施設に問い合わせを行いました。

重粒子線の適用はあるが難しい症例

重粒子線施設からすぐに、骨肉腫は重粒子線のよい適用であり、第1-2胸椎の骨肉腫ということであれば重粒子線治療以外には根治的治療は難しいのではないか、との見解が示され、患者さんからの希望が重粒子線に絞られました。とはいえ、難易度の高いケースと予想されることから、様々な観点を検討することになりました。重粒子線で治療するにしても化学療法は併用する方がよいとのことで、どの段階まで母国で治療を行い、どのタイミングで来日するかが焦点となりました。また、術後の残存についても現地の医師と詳しく見ていくことになりました。

来日までの現地医師との連携

現地と来日のタイミングの調整

まず、化学療法についてですが、第一選択肢としては現在自国で受けている方法での化学療法を予定通り6サイクル受けてから来日という方針が示されました。ただし、2~3サイクル後に憎悪(Progressive disease, PD)であれがただちに重粒子線治療に切り替える方がよいとの見解で、その方針を現地医師とも共有してもらいました。来日の際には化学療法の影響で血液毒性が出現する可能性もあるため、それも両国医師間で調整することになりました。

難しい症例に対応できる総合病院の強み

患者さんからは、重粒子線を受けるにしても親族の住む東京にもっと近いところにある重粒子線施設の方が何かと利便性がよいのではないか、との話も出ました。これに関しては、現地の化学療法がうまくいかずに日本での化学療法継続に切り替えた場合や、現地で化学療法を終えてきたとしても骨肉腫の化学療法は強力なので体力が十分に回復しきっていない時期に来日して治療を受けるとなった際に合併症が起こりうる可能性もあるため、東京に近い重粒子線治療のみを行う施設よりも、東京から多少遠くても幅広い分野のスタッフが不測の事態に備えることができる総合病院の附属であるこの施設の方がよいのではないかと説明し、患者さんも納得されました。

残存腫瘍について両国医師間で検討

術後の残存腫瘍の有無についても現地の医師と確認を画像で確認を行いました。残存を調べるために術後1か月ほど経過した時点でCTを撮影し、それを日本にも送ってもらうことになりました。現地医師の見解では残存腫瘍を証拠づけるものは発見されなかったということでした。しかし、腫瘍切除の切除断端がクリアではなく、上端ではコンタミネーション(腫瘍細胞が周囲の正常な組織や他の部位に移動や広がりを示すこと)もみられるが、かといってこれ以上手術で削り取るとはできないため、重粒子線治療が必須であることは間違いない、と考えておられるとのことでした。日本の医師から現地の医師に、照射範囲を決めるためにコンタミネーションがあるだろうと思われる部分に画像に印をつけていただくなど、医師同士のコミュニケーションによる調整がなされました。

術後の金属固定具が新たな課題に

このCT画像によって新たな課題が判明しました。手術後に金属固定が行われているということです。このままでは治療計画を作成するために撮影する画像に乱れが生じて正確な計画が作れない恐れが出てきます。そこで、金属の材質を確認したうえで、一度金属を外して重粒子線治療を行って治療後に戻すか、外さずにそのまま重粒子線治療を行うか検討することが必要になりました。現地医師によれば使われている金属はチタンで、陽子線治療の例では金属固定を行ったまま実施しているケースもあると聞いているので、問題はないのではないか、との質問がきました。固定具を外すと安定性が悪くなり照射の姿勢にも影響を与えるため脊椎の専門医が検討することになりました。一方、固定具を付けたままだと金属による占領の不確実性は避けられないというデメリットもあり、この部位で重い、脊髄障害が起れば下半身麻痺の状態になってしまうからです。慎重な決定を行うために院内カンファレンスで検討されることになりました。固定具に使われている金属はチタンで、一部ネジだけが合金であることも患者さんから伝えられ、総合的に評価した結果、固定具は外さないで治療計画が立つ見込みとなりました。  化学療法を3サイクル終了した時点でのPETも送られ、憎悪がないため、予定通り6サイクル終えてからの来日日が決まり、来日に向けた具体的な準備が始まりました。

順調な治療経過

照射は16回、外来で行われることが決まりました。化学療法後に血液毒性を起こさないための薬も現地医師から処方されました。自国で済ませておくべき検査や医療情報や病理標本なども医師同士で来日前に確認を行いました。今回の患者さんにもマンスリーアパートメントの準備を提案したのですが、日本は交通の便がよく、東京にも頻繁に新幹線等を使って行けるために、ホテルに滞在して検査を含めて1か月超の治療を受けることになりました。病院からは車いすの必要の有無など丁寧な確認が行われました。来日後、東京と病院を行き来しながらも無事に治療が進められました。心配していた脊髄の障害も問題ありませんでした。治療が無事終了すると、1か月後には、タイに旅行に行けるくらい元気になりました。 治療後の母国の医師への報告書や紹介状なども用意し、治療後数か月経過した画像比較の結果も母国の先生から報告がありました。