心臓(心不全、心筋症)

【体験記】自己骨格筋筋芽細胞シートによる心筋再生治療 ペースメーカーを外し海外留学できるまでに回復

24.04.02

現地政府から日本開発の治療法を受けさせたいと連絡

生まれつき心臓病を患い、心室拡張に

中東在住の20代のこの患者さんは、生まれつき心ブロックがあり、生後すぐにペースメーカーを装着。それから通常の健康状態で過ごしていましたが、3年前に睡眠中突然左側の胸痛と肩の痛みに襲われ、心筋膜炎と診断されました。入院中のエコー検査で左心室の拡張と重度の左心室機能不全が確認されました。3階分の階段を歩けるほど体調は良好だったものの、その後アメリカの病院で重度の左心室拡張が確認されました。心臓移植も希望したのですが、叶いませんでした。 そこで、現地の主治医が日本で開発された自己骨格筋筋芽細胞シートによる心筋再生治療を受けさせたいと連絡をしてきたのです。本件は現地政府が治療サポートするスキームで進められました。

自己骨格筋筋芽細胞シートによる心筋再生治療とは?

手術や薬を使っても新機能が回復しない重症心不全の治療には、一般的には心臓移植か移植までのつなぎとして使われる補助人工心臓(LVAS)しかありません。 そこで開発されたこの治療法は、患者の大腿部から骨格筋筋芽細胞を採取、培養してシート状にし、心臓に貼り付けることで、シートからサイトカインが放出され心筋の再生を促す治療法です。2007年に世界で初めて日本でこの治療法を行い、この患者はLVASを外せるくらい回復しました。

入院計画と来日のための準備

患者さんから医療情報が届き、来日することが決まりました。まず1回目の入院で検査と骨格筋採取の手術を実施、問題なければ1か月後に2回目の入院でシート移植を行う計画です。現地政府や大使館と連絡を取りながら準備を進めました。言語や食事の確認を行いました。ハラール食が望ましいとのことでしたが、病院で完全なハラール食を提供することはできないが、患者さんから治療が最優先ということで豚肉を除去するなどできる範囲で配慮を行うことで了承を得ました。ちょうどその時期に患者さんがおられる国で日本の医療のシンポジウムが開催されることになっていて、そこに日本から担当医とEAJの社員が参加する予定があったために、現地で主治医と患者さんにお会いすることになりました。先生は患者受入れにあたって、心不全の程度やご本人の性格などを知っておきたいとのことで、どれくらいの距離を歩けるのか、胸の痛みの有無、リハビリ状況、宗教的な事柄の優先度など確認されました。 その後、現地政府との調整も進み、来日日が決まりました。ご家族分含めてマルチビザの手配をしました。重症の心臓疾患である手術のリスクを考慮すると夜中の急変などもありえるとのことで、24時間アラビア語と英語の通訳を用意することになりました。このためアラビア語通訳網を増強させて対応することになりました。

1回目の入院で骨格筋の採取

直前の血液検査で感染症がないことが確認でき、予定通り来日しました。通訳が空港まで出迎え、予約したホテルにお連れします。翌朝には入院で、3週間後に退院予定です。サービスアパートメントから病院までのハイヤーも手配しました。普段の通訳は英語、医師からの説明やインフォームドコンセントの際はアラビア語の通訳が対応します。24時間通訳が必要なため、次の通訳に交代の際に引き継ぎを行い、必要な情報は共有するようにしました。また、ご家族をはじめ身の回りのお手伝いをする方も入れ替わり来日したために、その迎えや生活のための通訳も提供しました。  手術は全身麻酔になるため、麻酔の説明を行い、筋肉サンプルを取って培養がうまくいくかの確認後、骨格筋採取の手術日が決まりました。手術は5グラムの骨格筋の採取に成功。手術後はしばらく車いすを使うことになります。退院後はいったん帰国して、1か月後に再来日して2回目の入院になります。今回の来日は日本の最先端の治療を中東政府のサポートのもと受けに来るということで、テレビの取材や新聞にも掲載され、かなり話題になりました。

2回目の入院で培養シートの移植

2回目の入院は約1か月半の予定で来日しました。入院して早速、先生から培養していた筋芽細胞が十分に大きくなり良い状態だという説明があり、10日後に手術を実施することも決まりました。手術の際に新しいペースメーカーの設置場所を決め、術後2~3週間後に新しいペースメーカーを入れます。その後は定期的に心臓のCTや心エコー、心電図の検査を受けて手術を待ちます。入院も2回目となると患者さんもすっかり環境に慣れたようで、デイルームでゲームをして過ごしたり、以前入院中に知り合った他の患者さんからお見舞いを受けたりして過ごしました。手術当日、朝8:30に手術室に入り全身麻酔をしてから手術を行い、4時間で完了しました。術後に麻酔で長時間目を覚まさないことに両親が心配したため、この治療のチームのチップの教授がご両親のところに来て、手術が成功したことを笑顔で説明してご両親を安心させました。術後はしばらくICUで過ごします。開教手術だったため3日は麻酔で眠っていました。麻酔が覚めた後も経過は順調で、間もなく一般病棟に移動しました。 帰国日が近づき、航空機に搭乗する許可を受けるために病院から書類を取り付けるなど、帰国の準備が始まりました。退院予定日前の諸検査もパスし、退院日には、たまたま日本を訪問していた患者さんの国の王族の方がお見舞いにいらっしゃいました。

フォローアップ後、日本で勉強するまで回復

今回の治療は臨床研究に参加という形を取っていたため、手術から2~3か月後に検査が必須となります。このため、帰国から1か月後に再来日して検査を行うことになりました。外来で検査や診察を行い、経過が順調であることを確認しました。この来日時には、患者さんのお父様がお世話になった先生方に感謝の気持ちを表したいとホテルでサンクスパーティーを開催されました。次の来日は術後半年です。心臓カテーテルの検査があるので入院して検査を受けました。  術後1年後に検査が予定されていたのでご家族に連絡を取ったところ、なんと患者さんは、日本語を勉強するために日本に滞在中とのことでした。すっかり元気になり、海外の学校に通って勉強できるようになったと聞き、私たちも先生方も驚きました。