小児疾患

斜視、緑内障、白内障のほか、眼科希少疾患に幅広く対応 検査も手術も0歳から~正確な診断と治療で子どもの未来を大きく拓く

24.04.03

記事監修:国立研究開発法人国立成育医療研究センター

眼科 診療部長 仁科 幸子 先生(M.D., Ph.D)

「子どもの成長を応援することは、今を未来につなぐこと。どんどんいい方向に伸びていく可能性を持っている子ども達の手助けけができることに、大変やりがいを感じています。」(仁科先生)

検査も手術も0歳から

EAJ:「まだ小さいから、もう少し大きくなってから治療を」と考えるお母さんもいるかもしれませんが、先生が早期治療を提唱されるのはなぜですか?

仁科医師:眼科は重症な病気ほど0歳で発症しているのです。ですから、できるだけ早く、理想は0歳から病気を見つけて0歳から治療することです。治療のタイミングが早ければ早いほど、予後はよくなります。

0歳児治療を支える病院の総合力

EAJ:早期治療といっても、0歳児の赤ちゃんに目の検査や治療は耐えられるのでしょうか?

仁科医師:成育医療研究センター(以下成育医療センター)には、小児にかかわる全ての診療科が揃っており、また小児に長けた麻酔科の先生が常駐し、全身麻酔による検査が随時可能です。 緑内障かもしれない、網膜ジストロフィかもしれない、血管増殖病変で網膜剥離になる可能性がある等、早く診断して適切な治療やケアを行わないと、手遅れになる疾患があります。あらゆる疾患の可能性を視野に入れ、全身麻酔をかけて丁寧に検査します。 一般の病院では麻酔も難しいような、ごく小さなお子さんの治療は特に、我々病院の使命だと思って日々診療にあたっています。

先天白内障

例えば先天白内障の場合、生まれた瞬間に両眼が強い白内障があれば、生後12週(生後2~3か月)以内に手術すると良い視力が育つと言われています。片眼が白内障の場合は、良い方の目だけを使ってしまい、もう片方の目の視力が伸びなくなってしまうので、より早く、生後6週までに手術するといいと言われています。小児科の先生が健診等で気づいてくれることもあれば、親御さんがお子さんの瞳が白いがどうしたのだろうと異変に気づいて診察に来られて、治療につながることもありますね。 一般的な治療スケジュールは、事前にご相談、データのやりとりをさせていただいて、来日・治療することになりましたら、入院期間は一般に約1~2週間となります。通常ですと、その後は、退院後2週間目、1か月目、2か月目、3か月目、半年、半年ごとに1回診察します。

先天緑内障

先天緑内障は、1歳までに7割がた発症してしまうのですが、発症したら1週間以内に治療に来ていただきたいですね。先天緑内障には必ず手術治療が必要です。他のタイプの緑内障で、目薬で眼圧を下げられる場合には少し猶予ができますが、もし目薬が効かないなとなったら、2~3週間以内に治療する必要があります。

先天緑内障の手術は線維柱帯切開術が良く効くので、早く発見できれば良い視力が育ちます。しかし無虹彩症や、前眼部の異常に伴う緑内障、先天白内障や未熟児網膜症の術後の緑内障は、線維柱帯切開術が効きにくく、次の手術法が必要になります。

濾過手術は小児では術後管理が難しく、合併症を起こしやすいのでなるべく避けており、マイクロシャント手術を行っています。毛様体レーザー凝固術は、合併症が起こりやすい緑内障に対する可及的措置で、治療後1年間くらい持つことが多いのですが、定期的に行うことが必要になります。

1回の手術で悪いところを取り除くというわけではなくて、眼圧が正常に保たれているかどうか、視神経の障害が進んでいないか、再手術が必要でないか確認していきます。術後の経過観察がとても重要で、手術同様、医師の経験値が問われるところです。術後管理で重要な眼圧検査は、3歳をすぎれば一般のクリニックでも計測できると思いますが、乳児期に対応できるところはまだ多くないかもしれません。 一般的な治療スケジュールは、上記白内障の場合とほぼ同じです。

斜視

両眼で立体的にものを見る両眼視機能は、子どもが視覚を使って行う細かな手作業、読み書き、球技の習得や、心身の発達に大きく関わります。両眼の視線が一致しないなどの異常があった場合には、できるだけ早い段階から治療しなければ両眼視機能は身につきません。

生後半年くらいまでに起こる乳児内斜視は、両眼視機能の獲得が最も難しいタイプです。一般には目の周りにある外眼筋を移動させる斜視の手術が必要になります。1歳前くらいまでに手術を行って目の位置をまっすぐにして、両眼視を育てます。立体視を目指した超早期の手術も推奨されており、生後6か月までに来てもらえれば生後8か月までに手術できます。

治療にあたっては、まず子どもの成長に合わせた斜視検査を行って正確に診断を行います。長中期的な視点から子どもに侵襲の少ない術式、つまり術後の成長による変化(目が中央に寄ってきたり、外側に流れたり等)を想定し、将来再手術も可能となるよう配慮しています。

斜視といっても、いろいろなタイプがあります。間欠性外斜視、内斜視、上斜筋麻痺といった一般的なものから、デュアン症候群、外眼筋線維症、先天性動眼神経麻痺などの特殊なもので、全ての斜視に対応が可能です。ただし、ボトックス治療(ヨーロッパでは可能)は、日本やアメリカではでは12歳未満の小児には認可されていないのでできません。

乳児期には、3か月以上斜視の状態が続くと両眼視の予後が悪くなります。0歳代、1歳代であれば、斜視に気づいたら3か月以内に治療を開始しましょう。2歳だったら半年以内でも大丈夫です。1日を争うというわけではないですけれども、できるだけ早くお越しいただきたいと思います。 一般的な治療スケジュールは、ご相談、データのやりとりをさせていただいて、来日・治療することになりましたら、入院期間(検査含む)はおよそ4泊5日です。まず入院後2日間かけて丁寧に検査を行い、手術法を決定することになります。退院後は、1週間目と、1か月目に安定しているかどうかを診て、半年後、1年後、2年後、3年後とフォローしています。斜視の場合、概ね予後はよく、合併症などのトラブルはほぼゼロだと思います。

その他疾患

小児には、家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)や、色素失調症、コーツ病など、網膜の血管が増殖して、急速に網膜剥離へと進行して失明に至る疾患があります。全身麻酔をかけて網膜の血管の状態をよく検査して、レーザー光凝固を行う、冷凍凝固を行うといった治療は得意です。未熟児網膜症については、昔と違って抗VGF薬で治療する方法ができたことによって、手術を行うケースは少なくなっていますね。

治療後のアフターフォローで予後が大きく変化

EAJ:「世界において質の高い手術ができるところはたくさんあるが、術後管理のきめ細やかにおいて日本の治療が一番」という患者さんのお声がありました。眼科治療では、術後の管理や弱視訓練、ロービジョンケアで、視力改善の度合いも変わってくるそうですね。

仁科医師:子どもの場合、心身とも成長途上なので、成長に対するケアが、どの診療科でも腕の見せ所なのだと思います。とくに眼は耳と違って生まれた直後は全く機能していませんが、生後に急速に育っていきます。成長途上の眼は、刺激に対する感受性が高く、病気が起こると容易に損なわれますが、早く治療をして訓練ケアを行うと、予想以上に良くなります。

術後には、その子に合わせた視覚の評価法を使って、最大の視力、立体視/両眼視機能が伸びるよう、訓練とケアもしていきます。また、緑内障などの合併症が起きているかもしれない等、何か異変の兆しがあった場合は、またすぐに精密検査を行って、わずかな変化を見逃さずにすぐフォローすることも心がけています。

現在の医学では根本的な治療ができない難病であっても、早期に精密検査と正確な診断を行って、病気が今後進行するのかしないのか、今どのくらい見えているか、今後どう変わるのかをご家族に説明しています。このことによって、本人と周囲が心の準備をして、弱点をカバーし長所を伸ばすことができますし、学校や社会に合理的配慮を求めることができます。 日本では視能訓練士という国家資格を有する職業が存在します。特に成育医療センターでは小児に特化した視能訓練士が在籍しており、精度が高くきめ細やかな術前・術後の管理や訓練、ケアを提供しており、適切な眼鏡の選び方や、効果の上がる家庭での訓練法、視覚補助具の使い方、見やすい環境の整備など、様々なアドバイスを行います。訓練次第で視力が伸び、予後がかなり変わってくるので、とても重要です。子どもの視力は6歳を超えるとほぼ変わりませんので、就学前にそういった訓練を行って仕上げるようにしています。子どもの脳が発達途上なので、適切な時期に必要なことを入力してあげるとうまく育つのです。そのタイミングを逃すと、後から改善するのは非常に難しくなりますね。タイミングがとても大事になってきます。このような弱視訓練やロービジョンケアは、検査後2~3日の滞在で基本的なアドバイスが可能です。

合併症への総合サポート

EAJ:ほかにも小児総合病院ならではの強みはありますか?

仁科医師:合併症を持っておられるお子さんでも、各診療科の先生が協力して連携して治療にあたることが可能です。

例えば、白内障は、一番多いのは遺伝性のものですが、ほかにも、風疹や、ダウン症など、全身的な病気の一症状ということもあります。そういった場合も、目だけでなく、耳はどうか?全身状態はどうか?など症状に応じて関係する科に相談することがあります。これは小児病院全科がそろっている成育医療センターの強みだと思います。

他にも、例えば先天無虹彩症で緑内障になった患者さんは、手術治療が必要になることが多いのですが、無虹彩症の場合、WARG症候群といって、腫瘍ができやすいこともありますから、小児科で腹部エコーを撮ったり、遺伝科で大きな遺伝子の欠損部位がないかどうか検査することも大切です。

アクセンフェルト・リーガー症候群の患者さんで、心疾患も患っており、通常であれば心臓手術を先に行うところ、前眼部形成異常で緑内障を発症したため、緑内障の手術を先にして、その後すぐに心臓の手術をしたということもありました。 これまでたくさんの難病を治療してきたからこそ、様々な疾患の可能性を排除せずに注意深く治療にあたることができるのではないかと思います。

遺伝子検査と治療の展望

EAJ:遺伝外来について教えてください。

仁科医師:現在、眼科でも遺伝子検査ができる病気が増えてきました。レーバー先天盲と網膜芽細胞腫は特に力を入れている疾患です。今後は遺伝子治療にも力を入れていきたいと思っています。

レーバー先天盲は、生後早期に起こる重症の網膜色素変性症で、小児の視覚障害の主要な原因です。視細胞の機能が損なわれる疾患で、ごく一部の遺伝子変異に対し、遺伝子治療がまだ始まったばかりです。

大人になってからの網膜色素変性症は、暗い場所が苦手、まぶしいところが苦手、といった症状で自ら病気に気付くことが多いのですが、レーバー先天盲は、赤ちゃんの視線が合わない、目が揺れている、まぶしがる、目のまぶたのあたりを押したりする、見る反応が乏しいといったことに親御さんが気づいて、来院されるケースが多いですね。

網膜電図、画像検査など、網膜の機能や形態を調べて診断を行うための精密検査自体は1泊2日で、大きいお子さんであれば麻酔をかけずに検査が可能ですが、乳幼児期の場合には全身麻酔下で全ての検査を行います。 遺伝子検査を実施した場合、原因遺伝子がわかるのは現状4割くらいです。原因遺伝子がわかれば、治験についての情報提供や、多くの人が持っている遺伝子だった場合には、これまでの臨床像をご提示することが可能です。レーバー先天盲は通常は常染色体潜性(劣性)遺伝なので、お父さんお母さんが保因しているケースが多く、遺伝相談、再発率のご相談をお受けしています。

網膜芽種(網膜の癌。日本だと年間70人程度発症で、うち10数名が成育医療センターで治療している。)もRB1というがん抑制遺伝子が関係する疾患です。RB1遺伝子のスクリーニング検査は精度の担保された臨床検査として提供可能です。生まれつきRB1遺伝子に変化を持っている遺伝性の患者さんの場合、他の癌にもなりやすい体質のため、健康管理が重要です。また遺伝性の場合、半分の確率で親から子に受け継がれます。このため、お子さんが生まれたら、すぐに眼科で眼底検査を行って、発症したら即治療を始められるよう備える必要があります。早期に発見できれば、眼球を温存して、良い視力も得られる可能性が高まります。

患者さんへのメッセージ

EAJ:最後に、患者さんとご家族へのメッセージをお願いします。

仁科医師:まだごく小さな赤ちゃんの場合は特に、なかなか治療先が見つからないことがあるかもしれませんが、早期に治療に着手できることは極めて重要ですので、迷わずに、ぜひご相談ください。 また、持病があるが眼科で見てもらいたいなど、複数科にまたがる疾患をお持ちの場合でも、成育医療センターは小児にかかわる全ての診療科を有しており、各科連携しながら日々治療にあたっていますので、事前にご相談いただければと思います。