小児疾患

グローバルな小児総合かかりつけ医として 四肢変形をはじめ、あらゆる診療科横断的な治療に応える

24.04.03

記事監修:国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

小児外科系専門診療部 整形外科 診療部長 江口 佳孝先生(M.D., Ph.D.)

四肢変形矯正脚延長・再建

創外固定(イリザロフ法)とその歴史

EAJ:江口先生は、国立成育医療研究センター(以下成育医療センター)の整形外科において、小児の下肢の治療がご専門とのことですが、特に多く対応されている疾患について教えて下さい。

江口医師:一番多いのは、四肢変形や、骨折後に骨がなかなか元にもどらない偽関節等のお子さんに対する矯正脚延長治療です。仮に左右の脚に2㎝以上の差があった場合、腰で背骨が曲がってしまい姿勢に影響しますので、装具を使って揃えます。差が開いたりするとその装具はどうしても大きくなります。なので年齢が小さなうちは気にならなくとも、学校が始まると装具をつけてては体育の授業が受けにくい、捻挫しやすいなど、生活に不便を感じるようになって来院されるケースは比較的多いですね。 脚延長を行う方法としてイリザロフ法というのがあります。これは、骨折が治るときのメカニズムを活用し、創外固定器を用いて、骨を固定しながら修復、延長を促すものです。比較的古い歴史を有しており、技術的には1950年代からあるものです。1964年東京オリンピックで金メダルを獲得したロシアの走り高跳びの選手がいたのですが、彼はその2年前に開放骨折(骨折した骨の骨端が皮膚の外に飛び出して傷がある状態の重度の骨折)していました。ロシア、クルガンにあるイリザロフセンターのイリザロフ先生が見事に治し、金メダル獲得につながったことから、そこからイタリア、日本など世界中にじわりと広がっていきました。私はかつて2年半ほどロシア・クルガンに留学しイリザロフ法を学びました。

当院での治療期間

EAJ:およその治療期間について教えてください。

江口医師:脚は主に骨、筋肉、血管、神経、皮膚からできています。手術は骨だけを切り離して少しずつ延ばします。その速度は1日1mmが最大限ですから、例えば3㎝伸ばす場合にはおおよそ30日必要になります。脚延長には大きく「脚延長している期間」と「脚延長後待つ期間」があります。当院では「脚延長している時期」に入院することが多いので手術前後1週間みていただきますから、合計5週間程度の入院が必要です。脚延長中はリハビリテーションを行い、退院時には器具をつけたまま、最低限の日常生活が送れるようになります。「脚延長している時期」

退院後、「脚延長後待つ期間」になります。脚延長でできた骨がしっかり付いて安定するには、お子さんの疾患や症状などによる差もありますが、一般には、伸ばした時間のおよそ1.5倍~3倍の時間が必要になります。10cm伸ばすのであれば、1年はみてほしいと思います。【骨の固定期間】

現在も、軟骨形成不全症のお子さんが入院しているところなのですが、8~9cm伸ばしたいということで、骨の延長期間、固定期間を合わせた治療期間は10か月を予定しています。

固定期間中は、杖をついていただく必要がありますが、競技内容や程度に配慮して体育の授業もできるようになります。ただし、お子さんが元気に動き回りすぎることもあり周囲に配慮してもらうために、敢えて杖を持ってもらうことはあります。 海外から来日して治療する場合、骨の延長期間は当院に入院していただくことが必要ですが、退院後の骨の固定期間については、ご本人とご家族のご要望もお聞きしながら、本国で経過を診ていただくことも可能だと思います。

EAJ:脚延長の治療について、日本特有の配慮はありますか?

江口医師:アジア圏には床で生活する文化があります。欧米は、テーブルに椅子、ベッドの文化ですから、座る、ベッドに寝るといった動作を想定しますが、床文化であれば、しゃがむ動作も含まれるので、求める可動域、機能レベルが、より高くなる傾向にあります。そのようなご本人の生活習慣も想定して、どのような治療がベストなのかを決定していくようにしています。

成育の“スタンダード”に秘められた“特別”

EAJ:成育医療センターは、世界中から多数のドクターを研修で受け入れていると聞いていますが、どのような点を学ばれているのでしょうか。

江口医師:私たちは特別変わった治療法を行っているわけではありません。しかし、成長著しいお子さんに、どの治療法をどのタイミングで適用するか、複合疾患を持ったお子さんに対しては、どの疾患の治療をどの順番で行うかといった細やかな対応において、私たちには長い歴史と経験を有しており、それぞれの患者にとって治療効果が最大限となるよう、日々工夫を重ねています。海外から研修で来日しているドクターは、そういった私たちにとっての“当たり前”に感動されることが多いようです。

どの科に相談していいかわからない~小児のあらゆる疾患に応える

EAJ:治療全体を見据えた連携、病院全体のチーム力といっていいかもしれませんが、そのような総合的な品質の高さは、どのようにして実現されるようになったのでしょうか?

江口医師:私たちは、患者さんの病気の治癒ため、その1つの目的に向かって、病院全体が一体となって、つまり診療科が横断的に連携し対応することが当たり前という雰囲気があります。私たちは、小児・周産期・母性医療を専門とする国内で唯一の国立高度専門医療研究センターです。そのため、10万人に1人の割合で起こるような希少疾患であっても私たちは日頃的に治療にあたっています。内科的な問題を抱えているが同時に整形外科的な問題も抱えている、そういった境界領域で複数の疾患を抱えたお子さんも多数来院されます。 私たちは、そういったお子さんに、オールマイティに(全能的に)対応することが求められてきました。各科の医師がボーダレスに対応する以上、医療者同士が十二分に理解し合い、ミスの起こらない明快な検討プロセスや、診療科同士の密なコミュニケーションが求められることになります。それが結果として、患者さんからみたときの、効率的かつ効果的な治療につながっていると思います。

例えば、総排泄腔外反症という病気は生まれながら骨盤が開き、おなかの内臓に問題がある病気です。手術によって内臓だけでなく骨盤骨を閉じる操作が必要であり、その治療計画から実際の手術に至るまで泌尿器科、外科、そして整形外科医師がリアルタイムに連携し治療にあたっています。

また血管柄付腓骨移植術という骨欠損再建術が古くから知られています。これは、腫瘍切除後骨欠損、骨髄炎治療後の骨欠損、先天性偽関節、大腿骨頭壊死等の治療として行われているものですが、世界的に見ても今となっては行っている施設が限られつつありますが、これも形成外科医の微小血管を縫う技術・皮膚軟部組織を治す技術と整形外科の骨再建技術が合体して可能となります。私一人では技術的に難しい治療でも病院として可能になるのは当院の特徴です。

こうした連携治療は海外の患者さんにも適応することがありました。少し前になりますが、ある在留外国人の配偶者が新型コロナウィルス感染症のため本国に帰国できず日本で出産された方がいました。しかし出産したお子さんが先天性多発関節拘縮症といって、両内反足、先天性股関節脱臼、先天性握り母指症等の多発奇形がありました。ご家族にとっては、異国の地でご出産と重なりさぞやご不安だったと思います。しかし赤ちゃんは、歩く、立つといった発達過程があるので、その成長も見越して、変形した患部だけでなく、身体全体のバランスを考慮した治療計画が必要になります。患者さんの希望に則り、必要な治療を日本で行いつつ、治療経緯や画像を母国の医師に逐次お伝えして、外科手術を母国で行い、ご主人の在留期限まで経過を当院でサポートし無事に帰国されました。 当院では、どんな疾患であっても、お子さんを治すためにという視点から総合的にみて治療方針を決定し、検査も治療も、一つの建物内で効率よく治療することができます。

セカンドオピニオンも気兼ねなくしてほしい

EAJ:成育としてセカンドオピニオンを受けることはありますか?

江口医師:はい、かなりありますね。診断結果に不安を覚えた方が、当院にセカンドオピニオンを求めて来られるケースは多いです。異常と暫定的に診断を受けたが正常であることも多くそうした判断を求めてこられる方も多いです。海外からのセカンドオピニオンの例としてはFocal fibrocartilaginous dysplasiaによる幼児内反膝についての相談がありました。これは幼児内反膝の原因で一般的に正常に治るもの、一部O脚が残り治療を行うものがあります。しかし単純X線では骨がえぐれて見える事がありますので前医では骨肉腫の診断となりました。そうした説明を受けてしまいますと、ご家族としては大変不安になります。骨肉腫ではないことと、その理由を丁寧に説明したところ、非常に安心されていました。

EAJ:オンライン診療も可能ですか?

江口医師:オンライン診療は可能ですしそのためには現地の医師との情報共有は必要です。事前に画像検査結果が見る事ができますと、より説明がスムーズになります。ただ治療に進む場合は脚の動きをよく診察しないとわからない部分がありますので、オンライン診療の中でFace to Faceでの診察が可能かご相談する事があります。

患者さんへのメッセージ

EAJ:最後に、患者さんとご家族へのメッセージをお願いします。

江口医師:国立成育医療研究センターは海外の患者さんからは、技術面での安心感はもちろんのこと、病院としてのホスピタリティがある、気候のいい日本で、小児専門の治療を落ち着いて受けられる、治療期間中に親子で滞在できることは非常にメンタル面でもリラックスできるといった、トータルでの安心感があることを高く評価いただいています。当院を地球規模でみた、かかりつけ医だと思っていただいて、お気軽に相談してください。