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整容面にも配慮した外科治療 世界トップレベルの小児整形で“親指をあきらめない”
24.04.03
記事監修:国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
小児外科系専門診療部 整形外科診療部長 高木岳彦先生(M.D., Ph.D.)
小児整形に関するあらゆる疾患に対応
世界各国から研修希望~2026年まで予約が埋まる
EAJ:国立成育医療研究センター(以下成育医療センター)の治療実績や強みについて教えてください。
高木医師:上肢(肩から指先までを指す、いわゆる“腕”の部分)についていえば、母指多指症が年間50件前後、母指形成不全が20~30件程度、その他、裂手・指列誘導障害、合指症、先天性多発性関節拘縮症、先天性橈尺骨癒合症など幅広く対応し、国内有数の先天異常を扱うセンターとなっています。これ以外にも、上肢分娩麻痺や、骨折後の変形治癒なども多数治療しており、診療実績としては整形外科全体で年間500件以上にのぼり、その数も増えつつあります。
EAJ:かなり幅広く対応されていますね。
高木医師:これだけ幅広く小児疾患に対応し、治療件数もこなしている病院は世界的に見てもそう多くはないようです。患者の問い合わせだけでなく、成育医療センターのホームページや論文を読んだ諸外国のドクターからの研修の問い合わせも多く、直近では、インド、マレーシア、フィリピン、タイ、香港、ブラジル、サウジアラビア、イタリア等から研修に来ており、現時点で、2026年まで枠が埋まっているような状況です。
母指形成不全
“なるべく親指を温存する”という考え方
EAJ:幅広い疾患に対応されているとのことですが、日本ならでは、成育医療センターならではの治療というものはあるのでしょうか。
高木医師:例えば、母指形成不全、欠損まではいかないけれども、生まれつき親指が小さいお子さんの治療が挙げられます。諸外国、特にアメリカでは、小さい親指をあきらめて人差し指を親指にする手術が一般的です。たとえ4本の指となっても、機能的にしっかりした手を作ることができるという考えによるものです。機能さえしっかりしていれば、見た目にはそれほどこだわらず、それを受け入れる社会がある、ということも背景にあるのではないかと思います。一方で、日本を含むアジアの国等においては、文化的にも5本の指にこだわりがあって、小さな親指でもいいから親指を生かしてほしい、と考える傾向にあります。そのような価値観に応えるため、私達は、足にある骨を手の親指に移植し、手の小指側の筋肉を親指側に移行させて、親指に力が入るように再建しています。このような手術はアメリカではほとんど行っていませんし、日本国内でも実施している施設はそう多くないと思います。 このような手術を医療側が提供するには、高い技術はもちろんのことですが、加えて、患者さんの環境をとりまく価値観を理解してあげることが重要です。私達は、親御さんともしっかりコミュニケーションをとって、お考えを十分に理解しながら、整容面にも配慮した母指再建を行っています。
治療法と治療期間
EAJ:およその治療期間と内容について教えてください。
高木医師:軽度の形成不全であれば、筋肉を移行するだけで親指を再建することもありますが、親指がかなり小さく力も入らないような重度の形成不全であれば、(1)骨の再建として、まずは足にある骨を親指部分に移植して骨格を整え、(2)筋肉の再建として、つぎに小指側の筋肉や腱を親指側に移行させて力が入るようにする、2段階に分けての手術となります。
(1)骨の再建:入院1週間
まず、足にある骨を親指部分に移植して骨格を整えます。退院後、ギブスで3~4週間程度、患部を固定します。この間、週1回ペースで来院していただき、創の状態チェック、およびレントゲン写真で骨の状態をチェックします。骨は3~4か月でついてきますが、少し余裕をもって、次の(2)に進むまでに約半年程度空けていただきます。
(2)筋肉の再建:入院1週間
次に、小指側の筋肉や腱を親指側に移行する手術を行います。退院後、同様に、ギブスの固定を3~4週間行い、この間、週1回のペースで来院いただき状態をチェックします。
(1)(2)それぞれ退院後3~4週のギプス固定時期は、週1回来院いただくことが理想ですが、海外からいらっしゃっている場合には、お子さんや親御さんのお気持ちや生活環境等さまざまな点を考慮する必要があると思います。最低限、手術を含む1週間はこちらに入院していただく必要がありますが、その後については、ご帰国いただいて、自国の主治医と当院間で情報連携し、自国の病院で経過観察していただくことも可能です。どうぞお気軽にご相談ください。 また、退院後の親御さんのサポートは非常に大事になってきます。大人と違い、お子さんは自分の意志で手術を受けたわけではありませんので、再建した親指を使おうという意識がありません。人差し指と中指の間の方が力が入るので、何も誘導しなければ、お子さんはその部分を使いがちです。あえて親指にしっかり感覚を持たせるために、まずは親指と人差し指の間でモノを挟んで持ってもらう、要するにつまみ動作、つかみ動作をしてもらいます。“そこに感覚があって、力が入るんだ”ということを認識してもらって、どんどん使ってもらうことが大切です。親御さんには、お子さんにおもちゃを与える際に、積極的に親指を使うように差し出すなど日常生活の中で自然とリハビリとなるような動きを取り入れるようお願いしています。 このような指導は、退院してギプスをはずした後の外来で行っています。これは自国の病院でも可能だと思います。
その他対応が可能な疾患について
先天異常全般/骨折後変形治癒(内反肘など)/分娩麻痺など
EAJ:その他ご対応されている疾患についても、少しご紹介いただけますか。
高木医師:ほかにも多指症、合指症、裂手症、屈指症など多くの先天異常を扱っています。先天性多発性関節拘縮症では生まれつき肘がうまく曲げられないことがありますが、この場合も、筋肉を移行して、力を持たせる治療を行っています。救急も積極的に受け入れているので肘の骨折を始めとした外傷も多く、さらには骨折後に変形して治癒してしまったお子さん(内反肘など)の紹介も多くいただくので、その変形矯正にもかなり力を入れています。また、オートバイなどの事故で腕が引っ張られたときに首から腕にかけて走っている神経(腕神経叢)が引き抜かれて、腕が動かなくなる外傷がありますが、それと同じことが、分娩時に胎児が腕を引っ張られても起こり、生後、その赤ちゃんの腕がうまく動かなくなることがあります(分娩麻痺)。そのような場合に、神経の移行や筋肉や腱の移行による再建を行い、少しでも手や腕の機能を良くしていく治療も行っています。
お子さんと親御さんのために~あらゆる治療法を検討
EAJ:治療にあたって、先生は長年にわたり医工連携(義手等)にも取り組まれているとのことですが、なにかきっかけがあったのですか?
高木医師:私はもともと機能再建に興味があって整形外科を志しました。整形外科で機能再建といっても、生まれつきの疾患である先天異常は、後天的な外傷や疾患とは事情が大きく異なります。例えば大人が骨折した場合、元の機能にいかに戻すかということを考えて治療しますが、先天異常の場合は、元の機能に戻すというより新しい機能を作ることを念頭において治療を進めます。親御さんとコミュニケーションを密に取りながら、価値観も理解して、進めていかなくてはなりません。先ほどお話しした重度の母指形成不全であれば足にある骨を移植する、母指多指症だったら2つある親指から1つの親指を再建するなど、手術でできるものは手術で対応しますが、もともと腕を欠損しているお子さんの場合、手術ではどうすることもできませんから、義手などの工学のアプローチをとることもあります。2005年に成育医療センターに着任してから、様々な悩みを抱えたお子さんと親御さんが来院される中で、なんとかしなければならないと、できることを常に考え、さまざまな治療を行ってきました。その一つが義手で、工学の先生とも連携して実践を重ねてきました。小児の場合、症例数が限られており、手がける医療機関や医師の数も多いわけではありません。だからこそ、私達がしっかり取り組むことに大きな意義を感じて日々過ごしております。
患者さんへのメッセージ
EAJ:最後に、患者さんとご家族へのメッセージをお願いします。
高木医師:成育医療センターは、小児疾患全般について幅広く対応しています。例えば母指形成不全については、親指を諦めざるを得ない、切断せざるを得ない、というような状況にあっても、温存できる場合があります。これまでも、私達の治療によって、多くのお子さん、親御さんに喜んでいただきました。まずは一度ご相談に来ていただければと思います。
※すべて同じお子さんの手術前後の写真です。予めご両親の承諾を頂いて掲載しています。