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口唇口蓋裂、小耳症、巨舌症等の形成外科疾患に幅広く対応 整容面、機能面に秀でた医療技術で、お子さんの日常生活を末永く支える
24.04.03
記事監修:国立研究開発法人国立成育医療研究センター
形成外科 診療部長 彦坂 信 先生(M.D., Ph.D)
はじめに
国立成育医療研究センター(以下成育医療センター)の形成外科は、先天性・後天性欠損の形態的・機能的再建を行い、患者の社会的復帰を助ける外科診療を行っています。お子さんの身体的、精神発達を考慮し、最新の治療を導入して、最も低侵襲な治療を提供することを目指しています。全身麻酔で行う手術件数は年間250件程度、そのうち先天異常のものは8割で、代表的なものとしては口唇裂・口蓋裂関連が約50件/年、頭蓋縫合早期癒合症に対する形成術(脳神経外科との共同手術、骨延長術を含む)が約10~15件/年、小耳症耳介形成術が約10件/年のほか、巨舌症などにも長く治療にあたってきました。
口唇口蓋裂
チーム医療で患者さんにとってのベストを追求
EAJ:まずは、最も治療件数の多い口唇口蓋裂の治療について教えていただけますか。
彦坂医師:口唇口蓋裂は、胎生期の組織欠損または癒合不全により、先天的に口唇(くちびる)、口蓋(口の中の天井の部分)、上顎(歯茎)に裂を認める病態です。口唇裂のみ、口蓋裂のみ、唇顎裂(口唇裂と顎裂)など、多様な病型があります。口唇口蓋裂の治療方針は施設によって異なりますが、成育医療センターでは、口唇裂、口蓋裂、顎裂を3回に分けて治療する方針としています。1回目の手術は4~6ヶ月齢ころに行うことが多いですね。症状としては、口唇裂では多くの場合、顔面の変形は口唇にとどまらず鼻にも及び、整容性(見た目)の問題のほか、摂食、言語の問題が生じます。口蓋裂では、食事や言葉が鼻から漏れることにより、摂食、言語の問題が生じます。また中耳炎になりやすい、中顔面の発育(「人の顔の中心部分の成長のこと」、つまり上あごや鼻、頬の領域の成長や発達のこと)が不十分になりうる、といった問題や、顎裂の場合には歯茎の裂部に歯が生えないことによる歯並びの問題も生じます。 成育医療センターでは、術前から術後まで一貫して、形成外科、小児科、耳鼻咽喉科、歯科など関連する診療科と連携したチーム医療を提供しています。また術後のお子さんが円滑に社会生活を送れるよう、レジリエンス(精神的な打たれ強さ)向上のサポートも行っています。
治療期間(口唇口蓋裂の場合)
彦坂医師:診療情報提供書をいただいて、事前にオンライン診療を1時間程度行います。来日されたら、入院期間は10日間程度となります(手術せず、検査だけの場合は3~4日となります)。
退院後ひと月以内に1回診察させていただきます。その後、一般的には月1回の診察を半年程度継続しますが、3か月ごとの診察にする、オンライン診療で対応する等、患者さんの状況に応じて、柔軟な対応が可能だと思います。
鼻咽腔閉鎖機能不全
従来の手術か?自家脂肪注入術か?適応判断が大事
EAJ:口唇口蓋裂の手術後、もしくは術後の成長に伴って、言葉が鼻から漏れてしまう症状(鼻咽腔閉鎖機能不全の症状の一つ)に悩み、来院される場合があるそうですね。
彦坂医師:術後9割程度のお子さんが、日常生活に問題がない程度の鼻咽腔閉鎖機能(言語における口蓋の機能。以下閉鎖機能)を獲得します。しかし、成長に伴って鼻咽腔が拡大することで、一部の患者さんにおいては、徐々に閉鎖機能が低下することが知られています。以前は、閉鎖機能を改善するのには比較的大きな手術しか方法がありませんでしたから、症状が軽度の場合、言語不明瞭などの多少の不自由があっても、そこまでの手術をするほどではないと判断されれば、経過観察されているのが実情でした。しかし近年では、自家脂肪注入という比較的負担の小さい治療法も可能になり、細いカニュレを用いて大腿などから脂肪を吸引採取し、鼻咽腔後壁と軟口蓋の粘膜下に注入することで鼻咽腔を狭めて機能を改善することができます。そこで、鼻咽腔閉鎖機能不全の症状を持つ患者さんが来院された場合は、咽頭弁形成手術のような従来の比較的大きな手術か、自家脂肪注入か、どちらがより負担と効果のバランスがとれているかの適応判断を行います。検査には丸一日かかり、鼻咽腔ファイバースコープでの検査とともに、言語聴覚士による判断も行います。それらの結果に応じて、咽頭弁形成術か、自家脂肪注入かをご提案することになります。検査後そのまま治療に入ることもできますし、いったん帰国してご家庭で熟慮いただくことも可能です。 言語聴覚士の閉鎖機能判定が可能になるのは5~6歳前後で、その時点で問題ないと判断されても、15~6歳頃の身長が伸びてくる時期に機能低下することがあります。また、就職などの機会に気になって来院されることもあります。自家脂肪注入術の適応時期に制限はありません。お子さんの症状が気になった時点で治療が可能です。
小耳症
高い技術を求めて海外から来院も
EAJ:耳介が生まれながらに小さい、もしくは欠損している小耳症の患者さんに対しても、高い技術で耳介形成を行っておられ、海外からも患者さんが治療に来られることがあるそうですね。具体的にどのような治療を行っていらっしゃるのですか?
彦坂医師:基本的には、患者さん自身の肋軟骨を使用した形成術を行います。治療法は症状によって変わってきます。耳介が非常に小さい耳垂型と呼ばれるタイプでは3期法として、1期目でティッシュエキスパンダー(風船状のシリコン)を入れて、4か月程度かけて皮膚を拡張します。その後2期目には肋軟骨を移植し、半年ほどかけて移植した軟骨が耳になじむよう経過観察していきます。さらに3期目に耳介挙上、耳垂形成を行います。
EAJ:ふさわしい治療時期はありますか?
彦坂医師:9歳で耳の大きさが成人の95%に達すると言われていますので、9歳ごろに、(小耳症でないほうの)反対の耳と同じくらいの大きさの耳の大きさを形成すれば、生涯にわたって使うことができます。耳の形成には、肋軟骨を使いますの。20歳すぎると軟骨が骨化して硬くなってしまうので、手術が難しくなります。そこで治療は17歳頃までが望ましいと考えています。
巨舌症
整容面と機能面を両立するオリジナルの術式を開発
EAJ:巨舌症の手術においても、機能面に優れた術式を実施されているそうですね。
彦坂医師:巨舌症は安静時に舌が口唇の外に出る病態で、呼吸、摂食、言語、咬合、整容面などの症状を呈します。舌形成術には様々な方法がありますが、成育医療センターでは、十字切除術というオリジナルの術式を実施しています。文字通り舌を十字型に切除するものです。従来の舌先のみを切除する方法よりも複雑になるため、技術的には難しくなりますが、お子さんの整容面に配慮(大きさを十分に縮小し、厚みも減じる)しつつ、発話時の機能をより高いレベルで確保することができる点が大きな特徴です。
患者さんへのメッセージ
EAJ:最後に、患者さんとご家族へのメッセージをお願いします。
彦坂医師:形成外科領域の疾患は、手術後も成長に伴う長期間のアフターケアが必要とされるものが多くあります。成育医療センターは小児の総合病院で、ICUがあることはもちろんのこと、日ごろから診療科横断的に包括的なケアを行っています。術前術後のきめ細やかな診療だけでなく、退院なさった後も、例えば3歳ごろからお子さんと親御さん双方へのケアを行い、治療や治療後の生活に前向きに取り組んでいただけるようサポートしています。お子さんの成長を最大限応援できるよう職員一同治療にあたっておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。