治療法(陽子線治療)

病巣を狙い撃ちする「がん陽子線治療」 手術が難しい「すい臓、肝臓、胆のう、肺」のがんも併用治療で治療 南東北がん陽子線治療センター

23.11.21

南東北病院グループ 脳神経疾患研究所附属 南東北がん陽子線治療センター

村上昌雄センター長 監修

陽子線治療とは

水素の原子核である陽子を光速近くまで加速してがんにぶつけることで、がん細胞を死滅させる治療法です。陽子線は体内を一定程度進んだ後急激に止まり、そこで一気に高いエネルギーを周囲に発散(ブラッグピーク)します。このため、周囲の臓器や正常細胞への影響を最小限に抑えピンポイントでがんを狙い撃ちできます。週に5回程度の照射を数週間行いますが、1回あたりの照射時間はわずか15分程度なので通院で受けられます。しばらく日本に滞在していただき、ゆっくりと療養しながら治療を受けていただくことになります。

南東北がん陽子線治療センターの特徴

スペーサー挿入で他臓器へのダメージを抑える

総合病院である総合南東北病院と一体となり、外科手術や化学療法と陽子線を併用して治療するノウハウを確立しています。このため、陽子線単体では治せないようながんや難治がんも南東北がん陽子線センターであれば対応できることがあります。 特に、手術ができないすい臓、肝臓、胆のう、肺の手術は、他の放射線での治療も難しく、また陽子線といえども周囲の臓器に完全に線量がかからないようにするのは不可能なため、国内の他の陽子線治療施設でも治療が不可能とされてしまうことが多いです。南東北がん陽子線治療センターには他施設で断られた患者さんに対しても、外科とタッグを組んでスペーサーを挿入して積極的に治療を行っています。

深部に位置するすい臓がんにも効果的な治療

例えば、すい臓は腹腔内の奥深くに位置し、近くには胃や小腸、大腸、肝臓、腎臓などの重要な器官があり、これらの組織が放射線にさらされると、臓器に穴が開いてしまうなどの合併症を発症するリスクが高まります。スペーサーの挿入によって、すい臓とこれらの周囲組織との間に一定の距離を確保することで、照射のエネルギーがすい臓のがん細胞に集中し、周辺の正常な組織の被曝を最小限に抑えることができるのです。 このように他の重要な臓器に囲まれた部位への照射には、エネルギーが大きくそれに応じて他臓器に当たった時のダメージも大きい重粒子線(炭素線)よりも、質量が炭素の12分の1しかない陽子を使った陽子線治療の方が他臓器への影響をコントロールしやすいというメリットがあります。

その他のがんへの陽子線治療

すい臓がん、肝臓がん、胆のうがん、肺がん以外にも、頭頸部がん、前立腺癌、食道癌、骨軟部腫瘍などに対して陽子線治療を実施しています。前立腺には外科で前立腺に金マーカーを埋め込み位置照合システムが検知することで正確に照射できるような措置を行うことができます。また、外科で手術できる部分は切除してから照射を行うことで腫瘍をよりきれいに取りきる治療を行うこともあります。化学療法との組み合わせでは、腫瘍につながる動脈にカテーテルで直接抗がん剤を注入する動注化学療法と組み合わせることで、濃度の高い抗がん剤が作用するため陽子線の照射量が下げながらも効果的な治療ができます。 また、南東北がん陽子線センターでは、鎮静剤を使わないと体が動いてしまう年少のお子さんでも、総合南東北病院の小児科との連携により鎮静剤を使った治療が受けられます。

海外からの患者さんが陽子線治療を受けるには?

南東北がん陽子線治療センター(以下、「陽子線センター」)での治療をご希望の方は、海外患者受入サポートサービスを提供する日本エマージェンシーアシスタンス(EAJ)にご連絡ください。EAJは、海外患者の陽子線治療受入において豊富な実績があり、経験に基づくきめ細やかなサービスで、治療のために来日する患者さんをサポートします。

<治療の流れ>

来日前:

・医療情報や画像などをEAJに送っていただきます。

・陽子線センターで医療情報を検討し、治療の可否を判断します。

・治療が可能な場合、患者さんから医療費をEAJに振り込みます。

・EAJは来日に必要な医療滞在ビザ取得のための書類作成、宿泊・交通手配等、患者さんの来日のためのサポートを行います。

来日後:

・EAJが空港から陽子線センターまでご案内し、BNCTセンターに隣接する宿泊施設にチェックインします。

・陽子線センターにて、診察や必要に応じてCT等の検査を受けていただきます。

※陽子線センターでの検査や処置、治療には必要に応じて通訳がつきます。

・患者さんの体に合わせた固定具を作成します 。

・治療部位によって外科でスペーサーを留置する手術などを行う場合もあります。

照射期間:

・陽子線の照射は原則として平日毎日行います。

・X線を照射し、治療計画に使用した画像と合わせ位置決めを行います。

・照射は2~5分程度。位置合わせなどを含め15~30分で1回の照射は完了します。

・気になる症状等があった場合は、診察を行います。

・照射は2~8週間程度行います。

帰国後:

・治療効果を確認するための画像再送付をしていただくほか、必要な場合には陽子線センターでの再診を受けられます。

 ※帰国後の現地主治医と陽子線センターとの連絡等の手配はEAJがサポートします。

<滞在中の生活サポート>

・宿泊は、陽子線センターの近隣の宿泊施設を手配します。レストランや温泉、ランドリールーム、室内にはミニキッチンを備えています。一部屋にお二人まで宿泊できます。

・滞在中の生活に必要なお買い物や近隣の案内などのサポートをします。

・緊急時には24時間英語、中国語でサポートするホットラインをご用意します。お困りの際はいつでもEAJにご連絡ください。